ごつい湯呑みのようなスタイルをしたハンドルレスのマグカップ、通称ネイビーウォッチマグは、Corning社のミルクガラスのマグでご存知の方もいらっしゃるでしょう。径が大きく、さらに厚手のため重量があって、存在感たっぷり。
ネイビーウォッチマグは、その名の通りネイビー(海軍)が使用していたマグカップです。揺れる船の中という環境では、ある程度の径と重量が必要でした。また当たって割れてしまうような持ち手ははじめから付けないというスタンス。一般的なマグカップのスペックからはかけ離れていますが、しかし理にかなった作りではあります。
Corningのネイビーウォッチマグが作られはじめたのは、おそらく第二次大戦中となる1940年代から。アメリカ軍は当時1,600万人という群を抜く兵力を動員しており、それに合わせて兵士たちの衣食住に関わる様々なものが大量に作られました。ネイビーウォッチマグもそのうちの一つで、Corning社は相当な数を生産、納入していたようです。
ではネイビーウォッチマグというものが誕生したのは、いったいいつなのかと言うと、さらに50年ほどさかのぼった1890年代頃のこと。それまで船上で使われる食器はエナメルが中心でしたが、この頃から徐々に磁器製にかわってゆきます。
さすがにこの当時の食器が残っていることはまずなく、全てを把握することはできませんが、磁器製のネイビーウォッチマグを作っていたのは、一社ではありませんでした。現時点で当店が把握しているだけでもメーカーはShenango、Sterling、Victor、Jackson、Tepco、Walkerの6社に及びます。
ただ現存数はとても少なく、この6社をあわせても、Corning社のネイビーウォッチマグの現存数には及びません。磁器製のネイビーウォッチマグの方が製造されていた期間は長いはずなのに、いったいなぜなのか?これは推測ですが、陶器に比べてミルクガラスのマグカップは量産しやすく、その分安価だったため、結果、必要以上に生産してしまったのではないかと。
じゃあどうせだったらミルクガラスよりも珍しい磁器製のウォッチマンズマグの方がいいよね、という単純な話ではありません。もちろん希少性は所有感を満たしてくれる重要な要素にはなりますが、でもそこだけではなく、素材感という点にも是非注目してもらいたいところ。
マグカップは、皿やボウルなどに比べると、手に取っている時間の長いアイテムなわけで、だからこそ素材感というのは、とても大事なんじゃないかなと。これはミルクガラス、とうき磁器、両方のウォッチマンズマグを使ってみて、しみじみ感じたことなんですが、磁器製の方はゴツゴツしていてとても重たく、無骨な印象が強く感じられます。またよく見ると表面に微妙な凹凸があったりして、同じメーカーの同じ年代の個体でも、一つ一つに微妙な違いがある。これに対して、量産されたミルクガラスのマグには、ここまでの重量感や個体差はありません。
JacksonとSterlingのウォッチマンズマグをアップしております。コンディション、決してパーフェクトではありませんが、慣れてる方には十分実用レベルではあります。サイズ、重量、素材感は申し分なし。どうぞご覧ください。
→ Jacksonウォッチマンズマグ 1920~1930年代
→ Sterlingウォッチマンズマグ 1950年製
→ Sterlingウォッチマンズマグ 1950年製